1】【2

まず、いろいろと事件なのだ。≪ペロニカが新シングル「熟成快感」をリリースします!それにともなって、ぼくの話を聞いてくれませんか??≫という寺尾伴内からのメールを受信したところから始まった。うわっ、この不敵な感じ。すごいことが起きているんだろう、と予感もしつつ渋谷のモヤイ像前で待ち合わせをしたのだ(実際にすごいことが起きていた)。もたもたして家を出てしまったので、≪遅刻します!ほんますんません!≫というメールを送り、気をもみつつモヤイ前へ。

しかし、伴内氏はいない。時間に“超”厳密なことで知られる、あの伴内氏が――。
寺尾伴内
仕方ないので、ボケっと周りを見渡しながら待つこと数分。私は異変に気づいた。あれっ、おかしいな。あの人だれだっけ。見たことがあるぞ。目の前に黒いサングラスをかけ、ストライプの超派手なジャケットを羽織った男性がいるのだ。おお、そうだ。まさかの、テイ・トウワさんじゃないか。ここは渋谷だし。私は勇気を振り絞って、≪あなたはもしかして、テイ・トウワさんではありませんか?≫と声をかけた。唾を飲んだ。男は、サングラスを外した。二ヤけながらこう言った。
≪あ、どうも、寺尾伴内です。ご無沙汰しております≫

≪一体なんなんだ…!!?≫

『トリコロール・サマー』のリリース以来、彼と顔を合わせる機会はなかったのだが、彼の“渋谷系”進化度は加速していた。テイ・トウワ=寺尾伴内という混乱した図式に動揺しながら、≪ガラパゴス諸島か!≫という超分かりにくい一人ノリツッコミを脳内でしながら、私たちはインタヴューの場所へとは向かった。さまざまなデモで騒然とした渋谷の街中で、寺尾伴内はこうも付け加えた。
≪このジャケット、いいなと思って買ったんですよね。どうっすか?いいでしょう。でも、とあるV系アーティストが僕より後にこれを着出しちゃって。真似していると思われるとなんかゲンナリだよね≫

渋谷系からのヴィジュアル系ときた。 油断も隙もありゃしない。つねに仕掛けてくる男なのだ。

取材・文=半熟たまご
 
 このエントリーをはてなブックマークに追加


Peronica自然消滅の危機と復活

――どうもご無沙汰しております。『トリコロール・サマー』を出してからその後、ニュー・シングル「熟成快感」を出すまでの間は、何をしていたのですか。

Peronica 1stアルバム「トリコロール・サマー」インタビュー 『トリコロール・サマー』を出した後、すぐに次回作に向けて制作をしようとしていました。toyottyが「熟成快感」の歌詞を書き上げたのですが、そのタイミングで僕以外のメンバーが脱退したんですね。そこで、僕の中で一度“ペロニカは終わった”という気持ちがありました。「さよならペロニカ」という曲まで書いて。「熟成快感」の制作は進めていたのですが、ほとんど自暴自棄の状態で。そんなときに、3・11の震災が起こりましたよね。あの時って、多くのアーティストが曲を書いて、何か残そうとしているのを目の当たりにして。それを見て、なんだか“さよならする”気持ちはどこか行ってしまったんですね。

――しかし、ヴォーカルは不在なわけでどうするかと。

そんなときに、サエキけんぞう氏の「初音ミク sings ハルメンズ」の存在を知って。初音ミクでいってみよう、とふと思ったんですよね。新感覚で、心がざわっとするものがありました。初音ミクはたんに機械であるだけではなく、そこにメランコリックなものを感じました。「熟成快感」の歌詞との関連で言っても、初音ミクを使うということに意味があったと考えています。toyottyが歌詞だけ残して去ってしまった後、自分は「熟成快感」の歌詞を“解釈”しなければいけないわけですね。僕がこの曲で一番好きな言葉は<可愛いあの子になれたらいいのに>という一節です。そこから、この曲の根底にあるものは“コンプレックス”だと思ったわけです。手塚治虫作品でいうピノコのような存在がどこか自分の中で繋がって。

――なんだか、火の鳥<宇宙編>の猿田博士も思い出しました。SFアニメの世界ですね。

アニメで言えば、「新世紀エヴァンゲリオン」も自分の中では大きいかもしれません。綾波レイは数回死んでいて、個体が変わっていたりする。人間になれない初音ミクという存在に対して、“初音ミクは何を思うか?”ということも考えました。それで、toyottyがどいういうつもりで<可愛いあの子になれたらいいのに>と書いたかは分からずじまいだったけれど、SFの系譜にあるアンドロイドの存在や、“人間にはなれない”初音ミクを重ねて考えていたんです。



神聖かまってちゃん<の子>へのリスペクトは止まらないっ!

――面白いですね。続けてください。

実は、もう一つの意味も見出していたんですよ。<可愛いあの子になれたらいいのに>を、“ジェンダーを超えたい”という男の目線から考えたときどうなるか。そう考えると、神聖かまってちゃんに繋がってくるのです。<の子>という名前自体が、女性を思わせるような名前で、それから<の子>は最近ステージで女性の格好をしたりもするんですよね。彼がどういうつもりかは知らないけれど。実は「熟成快感」の曲の<可愛いあの子になれたらいいのに>のリフレイン部分には一箇所だけ初音ミクの声じゃない部分があるんですよ。なぜかわかりますか?

――いえ、分からないです。

実は僕の声をヴォイス・チェンジャーでいじったもので。あれは神聖かまってちゃんに対するオマージュなんですよ。かまってちゃんもヴォイス・チェンジャーを多く使うんですね。

――男である、制作者:寺尾伴内としての<可愛いあの子になれたらいいのに>という気持ちまでこの曲には込められているということなんですね。

そうなんですよ。僕は女の子が歌う曲を主に書いているけれど、やはりそれをどこか自分で歌いたいわけですね。可愛い女の子みたいに歌いたい。そんな気持ちもあるんですよ。そんな仕掛けが色々と込められています。

――神聖かまってちゃんがそういう視点から論じられるということは多くないので、とても面白いですね。ところで、寺尾さん、サングラスかけている時はテイ・トウワさんみたいですけど、外すと<の子>さんに似てませんか?

最近よく言われます。だんだん顔が似てきているような気がする…。

――ペロニカの音楽制作は主に宅録で行なわれていますね。バンドというのは、スタジオで音を即時的に合わせて曲を作り上げていく要素が強く、“音に対する瞬発力”のようなものが試されます。それに対して宅録はコピー&ペーストといいますか、編集作業の要素が強く、特殊な作業だと思いますが。バンドではなく宅録であるこだわりとかはあるんでしょうか。

話は少し飛ぶのですが、僕は高校時代からとにかくガロというバンドが大好きでした。コーラスものがとにかく好きでした。周りになかなかコーラスを一緒にハモれる相手がいなかったというのもあって、≪コーラスを多重録音してハモりたい≫というのが最初の宅録の動機でした。その発展形として、様々な音を重ねて彩りを加えていくということだと思います。

――ドゥーワップを想起しながら、ひとりベッドルームで声を重ねる白人みたいな暗さ…(笑)。いいですね。ブライアン・ウイルソンに始まり、今でもそういうアーティストは結構いるらしいですね。しかし話は変わりますが、ガロを聴いていた人が<渋谷系〜ニューウェイヴ/初音ミク>に到達していくという感覚はとても不思議な感じがします。

ガロなどを聴いていた時期と、その後渋谷系などに触れ始めた時期というのが僕の中であるので、それぞれに対する接し方というのは結構違うんですね。ガロやかぐや姫は本当に好きだったし、その歌謡的な世界観に魅せられていました。渋谷系などは、どちらかというと大瀧詠一、山下達郎のようなエディット感覚のある音楽の延長として聴くようになったように思えます。渋谷系という音楽も好きですけども、どちらかといえば<エディット感覚>という面で強い影響を受けていますね。

熟成快感ミュージック・ビデオ ――PVの世界についても聞かせてください。いろいろ衝撃的なのですが(笑)それは観てもらう人それぞれに感じてもらうとして。まずは、このPVには様々なオマージュや謎解きが仕掛けられているように思います。あるシーンで主演の女の子がTSUTAYAの袋からCDを取り出しますよね。それが、セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』(1977)、ビートルズ『ラバー・ソウル』(1965)、ペロニカ『トリコロール・サマー』(2010)で。それに対して、鼻で笑う男がヴェンチャーズのサイン入りシングル盤を見せつけるという。これは神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」の<昨日の夜/駅前TSUTAYAさんで/僕は、ビートルズを借りた/セックス・ピストルズを借りた>の一節を思い起こすには十分な仕掛けですね。これにはどういう意味があるんでしょうか。

これはペロニカの(エディット的な)音楽を映像でやったらこうなるよね、ということですね。神聖かまってちゃんは、今回の「熟成快感」では色んな要素で複雑に絡み合っています。<の子>さんには勝手に強いシンパシーを感じているので、彼に対するリスペクトをこめたつもりです。ミキシングまで今回は<神聖かまってちゃん風>になっていますし。本当に尊敬しています。

――楽曲の世界の病気っぽさというか、偏執狂っぽいところ似ていますもんね。

そうかも知れないですね。斬新なアイディアを持つアーティストが出てきて、しかもプロモーションの方法などまで革新的で。ライヴァル視とかそういう話ではなく単純に嬉しいのです。応援したい。

――PVには、他にも色んな仕掛けがありますが。

それはここで話さずとも、観る人にいろいろ考えてもらえればいいかなあと。



渋谷系を盛り上げていきたい

――今後のペロニカはどういう活動をしていくのでしょうか。

実は、昨日新曲を作ったんですよ。どういう形でリリースするかは決まっていないんですが。基本的には“女の子に歌ってもらいたい”と思って曲を書いているのですが、仮歌を自分が入れてみて妙にはまってしまうこともあって。「とりころーる」(『トリコロール・サマー』収録)なんかもそういう経緯で僕が歌ったんですけど。

――どんな感じの新曲ですか。

今、音源あるから聴きますか。どうぞ。

――音もめちゃめちゃ渋谷系ですね。しかも、仮詞だとは思いますが、<オヤマダギター、オザケンハ…>という謎の歌詞がツボにはいりました(笑)。

ほかにも来年に向けていろいろと動き出しています。2012年は野宮真貴さんの音楽活動30周年にもあたるし、渋谷系を盛り上げたいという気持ちもすごく強いです。待っていてください。

――渋谷系ルネッサンス!という意気込みが伝わってきます。20代前半の世代で渋谷系が注目されるような、ブーム火付け役になるといいですね。楽しみにしています。

[10月23日 渋谷/ロイヤルホストにて]


>>きのこ帝国・佐藤さんと夜の高円寺へ向かう

1】【2





Peronica
『熟成快感』
2011/11/16 配信限定リリース



Peronica
『A Tricolore Summer』
¥1,200
DERA-001
2010/07/07 on sale
CD収録曲
1. 瞑想ジュテーム
2. ノンレムSwimming
3. Pyjama de Ojama!
4. 組曲、真冬のヴァカンス
5. 僕はムッシュー
6. とりころーる
7. ジェニーはご機嫌ななめ

Peronica(ぺろにか)
2次元渋谷系ポップユニット。 2009年夏、寺尾伴内の新ユニット構想のつぶやきにより結成。 日本語ポップスの再興を目指し、1960〜80年代の音楽研究に基づく楽曲制作を行う。 ますます音楽の再分化が進む今日、テクノ、フォーク、ロック、歌謡曲… あらゆる手法を取り入れた楽曲はジャンルという野暮な柵をひとっ飛びし、 もはやノスタルジーにかられたオマージュを越えて、唯一無二のオリジナリティを追求している。 2010年7月7日、アルバム『A Tricolere Summer』でデビュー。

Peronica - MySpace
Peronica - MySpace


Peronica on Twitter
Peronica on Twitter


Deracine Music Records
Deracine Music Records